duckblueの文化的生活

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KPOPを主に、音楽、書籍、映画etc... 文化的だと思われる色々について綴る、女子大生のブログ。

【読書感想文】 森見登美彦 「きつねのはなし」 を読んで

 

「古都」と聞いてイメージするのは、日本風のわびさびや、それに伴った落ち着いた雰囲気だろう。そこに行けば、自然と心が静まって、自分の中に流れる「日本」を感じることができる。

しかし、この「きつねのはなし」での古都は、そんなやすらぎを与えてくれない。

4編に共通する不気味さと闇の深さは、そこから逃げ出したくなるような気分にさせる。逃げたい、逃げなければいけない、と思っているのに、体が動かず、目だけが情景を記録している、そんな気持ちで、この本を読んだ。

 

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

 

 

この本は、4つの短編から構成されている。

森見登美彦の短編集ではおなじみだが、短編といえど、話と話が微妙にリンクしている。特に今回は、いくつかのキーワードを通して各編が濃く絡まっていて、二度三度読み直すと、新たな発見がある。

全編を通して言えるのは、描写が本当に綺麗で引き込まれるということ。

本が好きな方なら、文を読めば、その情景がなんとなく頭の中に浮かぶ感覚がお分かりになると思うが、読んでいくうちに、鮮やかだけど不気味な、色んな色が情景に色づいて、感動するほど美しかった。

この本は、じっくり感想文を書きたいので、各編ごとに思ったことをメモとしてまとめていきます。所詮は学生の思った事で、作者が考えた世界を解釈するにはあまりにも未熟ですが、ご容赦ください。

 

一. きつねのはなし

静かな不気味さ、というイメージ。

芳蓮堂という骨董屋の主人、ナツメさんと、そこでバイトをすることになった大学三回の私、その彼女の奈緒子、お得意様の須永さん、そして、得体の知れない屋敷の主人、天城さんが登場人物。

天城さんがとにかく不気味。妙に細長い屋敷に住み、群青色の着流し(袴を付けないで着物を着る)を着て、畳に革張りのソファを置いてそこに座る。屋敷の中は暗く、側にある竹林から常に葉の擦れる音が聞こえる。

そんな場所で、天城さんを中心に、芳蓮堂、須永さんが骨董品の取引をしている。

「私」が須永さんに渡す予定だった骨董品を割ってしまい、天城さんの手を借りたことから「私」も取引に加わってしまう。

 

最初に、静かな不気味さ、と書いたのは、私がこの話で音をあまり感じなかったから。

竹林のざわめきとか、雨が降る音以外は音が無くて、節分祭のにぎやかさも、一枚フィルターを通して見聞きしているようで、くぐもった音しか聞こえない。

でも、4編の中で一番色を感じた。でろりとした蛙の蒔絵が描いてある漆黒の小箱、隅に赤い蘭鋳が浮かんだ漆塗りの盆、からくり幻燈の紅く頼りない光、青白く光る狐の面、などなど。ちなみに、蘭鋳と幻燈が分からなかったので調べてみると、蘭鋳(ランチュウ)は、金魚の仲間で、太っているもの、幻燈とは、絵などに強い光をあてて、別の場所に拡大して映す、スライドのようなものらしい。

 

印象的なシーンを二つ。

一つ目は、「私」が一人で店番をしていたときに、店の中に立っていた狐の面を付けた男を見たシーン。 午後二時、重い雲がかかる冬、つけすぎたストーブのせいでぼうっと部屋の中はあたたかいのに、外は冷たい。「私」はうたた寝をしていたから、これを寝ぼけていた、ともとれるかもしれない。その後、硝子戸に小石が当たったような音がして激しい雨が降る。穏やかな情景が、張り詰めて、雨で終わっていくのがすごく好き。でもぞくっとする不気味さが残る。

二つ目は、「私」がナツメさんにこう言うシーン。「貴女は僕とひきかえに、天城さんから何を貰ったんですか」その後ナツメさんが、それは言えないと答えたことから、「私」も最初から取引の一部に入っていたのだろう。結局、天城さん、須永さん、ナツメさんは何を何のために取引していたのだろう。最後、天城さんは、ナツメさんが渡した、あの黒い盆によって溺死したと考えるのが妥当だと思うけれど、それでも謎が多い。

 

全ての謎を明らかにしようとするのは、この話の中ではナンセンスだと思う。謎のままで、雰囲気を十分に楽しんだ。

「私」が奈緒子を節分祭から連れ出すシーンは、恒川光太郎の「夜市」を思い出した。

この後の話で存分に出てくる、狐と、ケモノも少し登場した。

人々に張り巡らされた蜘蛛の糸を辿ると、天城さんの住む屋敷にたどり着くだろう、という本文にもあるように、とにかく天城さんがぞっとするけど魅力的だった。

 

 

二.果実の中の龍

やわらかで、他の話に比べると明るい、けど不気味。

先輩と「私」と瑞穂さんという、三人の大学生が登場する。

「きつねのはなし」のキーアイテムが狐の面だったのに対し、この話のキーアイテムは、題名の通り「果実の中の龍」という根付(印籠を持ち運ぶ際に帯に固定するもの)だ。

先輩はいろんな経験をしていて、その中には天城さんの屋敷を彷彿させるものが出てきたり、芳蓮堂や、狐みたいで胴の長い、カッと開いた口が人間のような歯の妙なケモノも出てくるし、先輩の家の複雑な事情が明らかになる。けれど、瑞穂さんによって、それは全て先輩が作り上げた妄想だった、という事実が明らかになる。

それまで、伏線のようなものがたくさん出てきて、忘れないように集中して読んでいたのに、全てウソだったことに混乱した。

最初にやわらかで明るい、と書いたのは、基本的にこの話は、「私」の先輩と瑞穂さんのほのぼの?ストーリーで、先輩の冒険譚も明るかったから。そして、最後も瑞穂さんの旅立ち、という、割と後味がすっきりしていたから。不気味なのは、全てを妄想で覆い隠そうとした先輩の狂気。現実逃避がいくところまでいってしまった形。

この話の混乱するところは、「きつねのはなし」や、三つ目の「魔」に出てくるものと先輩の妄想が微妙にリンクしているところ(例えば、先輩の妄想の中の芳蓮堂の主人は須永さん)。この話は本当に妄想?何が本当?となった。

一番神秘的で印象に残ったのは、先輩の妄想の最後にある、奇妙な獣をみるシーン。どう考えても天城さんの屋敷、なのにナツメさんが狐の面をかぶっている設定で、からくり幻燈に映る例のケモノ(=雷獣)を見た後、巨大な水槽の中、鱗を青く光らせる大蛇を見る。このシーンだけ艶やかで青白くて神秘的だった。そして全編に共通する「水」が出てきた。

最後に印象的だったセリフ。

「こうやって日が暮れて街の灯がきらきらしてくると、僕はよく想像する。この街には大勢の人が住んでいて、そのほとんどすべての人は赤の他人だけれども、彼らの間に、僕には想像もつかないような神秘的な糸がたくさん張り巡らされているに違いない。何かの拍子に僕がその糸に触れると、不思議な音を立てる。もしその糸を辿っていくことができるなら、この街の中枢にある、とても暗くて神秘的な場所へ通じているような気がするんだ」

先輩はそう語ってから、煙草の煙を吹いて笑った。

「これは、僕の妄想だけれどもさ」

「きつねのはなし」とリンクさせてあるセリフだけれど、なぜか心に触れた。神秘的な糸、のことを私たちは縁、と呼ぶだろうし、その原点ってどこなのか、神の国なのか、と考えてしまった。妄想ばかり語っている先輩が、僕の妄想、と言ったことから、これは、あの妄想ノートにはなかった、つまり先輩の台本には無かった言葉なんだろうなあと思った。こんなことを考えられる先輩は「つまらない人」なんだろうか。瑞穂さんの言う通り、「なぜそんなことにこだわるの、その方がよっぽどつまらない」のだろう。

 

 

 

三. 魔

暗く激しくメタリックに不気味。

「きつねのはなし」に次いで好きだと思った話。

西田酒店の息子の修二とその兄の直也、彼らと同じ剣道の道場である清風堂出身の秋月と夏尾、そして修二の家庭教師である大学生の「私」が主な登場人物。「私」以外の彼らは方言を使うのも特徴。考えてみれば、京都の話なのにいままで方言があまり出てきていない。

暗く、激しく、メタリック、だと私が思ったのは、この話全体を覆う、曇り空、雨、雷鳴のイメージから。午後や夜のシーンが多く、濡れた空や地面に雷の光が映って、メタリックな輝きが頭に浮かんだ。激しく、というのは、この話が全編を通して一番「動」だと思ったから。とくに最後はアクションが多かった。

先ほど述べた私のイメージを凝縮したのが、冒頭の言葉だ。読んだときにものすごく好きだと思ったので、また引用したい。

大粒の雨が痛いほど降り注いで、路地のアスファルトが飛沫で煙っていた。青い稲妻が濡れた彼女を照らしだし、その手にある木刀がつややかに輝いた瞬間を思い出す。

まさにメタリック。作者の描写能力には本当に驚かされる。映画を見ているようにシーンが浮かんでくる。

さて、物語の中では、西田酒店の地域で、最近、夜道で人を襲う者がいるため、近隣住民が警戒している状況。タバコ屋のおばあちゃんは「魔が通る」と言い、人間がしていることではないと言っている。

そんな中、修二に勉強を教えに行く「私」は、何かが待ち受けている気配を感じて、荒れた家に近づく。そこで初めて例の狐に似たケモノに出会う。

この後、「私」は何度かケモノき出会い、そのことを、ケモノを知る直也、秋月は確実に気づいていただろう。夏尾は最初から「私」を睨んでいたことから、元飼い主として「私」から何かを感じていたのかも。修二の父が襲われたとき、ようやく読者も異変に気付く。修二からの電話を廃屋で受け取った「私」。そして先を走るあのケモノが「おい」と言う。

もうこの時点からぞっとしたけど、ケモノと同化?してしまった「私」は止まらず、おそらく先回りして捕えようとしていた直也、秋月を木刀で殴ってしまう。そして最後は夏尾に…

ケモノは、以前にも秋月に同化?していたことから、特定の人間にとりつく、ことによってその人間がケモノらしくなるのかなと思った。「甘い匂い」も鍵なのかもしれない。

ラストシーンも雨の中、物凄いスピードで終わった。でも爽快感はなく、どこまでもダーク。登場人物の真意が分かりそうで分からない。

 

 

 

四.水神

私があまり上手く情景をイメージできなかった話。

この話のキーアイテムは「水」だろう。

祖父の葬式の為に集まった親戚と「私」。回想シーンを織り交ぜながら、どこからか常に水の音がする。

これまでの三つの作品の謎を少しでも解いてくれるのかなと思っていたが、謎はさらに深まるばかりだった。

琵琶湖や、大きな屋敷、歴史ある家系という共通点から、万城目学の「偉大なる、しゅららぼん」を思い出した。

今回も芳蓮堂は出てくるけれど、あれはナツメさんだったのか、私は違うような気がする。

最後「私」が拾う鱗は、「果実の中の龍」に出てきたあの大蛇だろう。そしてそれが屋敷に住み着いていた何かであり花江さんを殺したのかもしれない。

この屋敷が、実は天城さんの屋敷なのでは?と思ったこともあったが、別物だと思う。でもそうだとしても面白いかもしれない。

 

 

ここまで相当長くつらつらと書き続けてきた。

最後まで読んで下さった方、もしいらっしゃればありがとうございます。

いろいろ謎が残るけど、不気味で、でも神秘的で、すごく面白かった。

 

さらに長くなるけど、もう少しだけ。

先述した通り、この話の描写が本当に綺麗で、いろんな情景が頭に浮かんできて、不思議に思ったことが一つ。

文を読んでふと思った情景が、今まで行ったどこでもない場所だったことってありませんか?

すぐに浮かんだ情景が、近所の公園だったり、路地だったりすることもあれば、どこでもない、どこだここ?って思う場所だったりする。

なぜ自分がそこを思い浮かべたのか、行ったことのない場所がなぜ出てくるのか、分からない。

今まで生きてきた中で成長していった、固定されたイメージが、気づかないうちに出てきているのかなと思ったり。そして初めて行った場所が見慣れた所だったりしたときに、その記憶が呼び起こされて、それを既視感っていうのかなと思ったり。

うーん、よく分からなくなってきた。

頭の中に描いた情景がそのまま絵になればいいのに。今後の技術の進歩に願いを託すしかないかな。

 

最近MV感想しか書いてなかったから、もっともっと本も読まなければ。